この時期になると、
「これは出ないからやらない」
「出そうな問題だけやりたい」
と言い出す子がいます。実際、過去の出題例を見て、出ていないタイプの問題を「やる必要が無い」と言ってパスする子もいます。

気持ちは分かります。
焦っているでしょうし、試験も間近ですから。
例えば、理科・社会のテストが無いのに、理科・社会を勉強しろとは言いません。しかし、出題傾向だけを見て、それに似た問題だけをやると言うのも頂けません。

過去にこんなことがありました。
やはり、上記のようなことを言って、こちらが指示したものを全くやろうとしない子がいました。

国語の問題だったのですが、受験校では論説文が1題、小説文が1題、古文が1題、それに文法・漢字・文学史という出題が5年以上続いていました。大抵、市販の過去問集は過去5年分が収録されていますから、その子は「論説と小説だけやればいい」と主張。でも教室では詩・短歌・俳句・漢文もやるようにと授業で与えたのですが、不服そうな態度。ろくすっぽ授業になりませんでした。

その晩、保護者から電話があり、これまた「出もしないことをやらされたと、子どもが泣いています」「出るところだけやらせてください」とエライ剣幕。ああそうですか、じゃぁ仰せの通りしますよと、そこからは一人だけ特別メニューで、ほかの事は一切やらせず、親御さんの言う通り、本人の希望通り、論説と小説のみをやりました。

そして試験当日。
暗い顔をして本人が塾に飛び込んできました。

理由を聞いてビックリ。
第1問目が「詩」の問題だったそうです。問題を見せてもらうと、高村光太郎の「レモン哀歌」。何と、私がこの子にやらせようと与えた問題の詩です。それをバカにして、出ないからといってやらなかったのですが、正にその問題が出題されたのです! しかも過去5年出題のなかった「詩」!

彼女(その子は女の子だったのですが)は、1ページ目を開いて、出題されているのがその問題だったとスグに分かったそうです。そして、急に「やっておけばよかった!」と後悔し、同時にものすごい不安感が襲ってきて、結局頭が真っ白になり、何をどう答えたかも覚えていないとのことでした。しかも国語が1時間目。その後の英数の試験も、「もうだめだ!」と思ってしまったので上の空。

結局、第1志望、合格安全圏の学校を見事に落ち、第2志望の、あまり行きたいとも思わない学校に進学するハメになりました。だから言わんこっちゃない…と言いたかったのですが、さすがに恥ずかしかったのか、本人も親御さんも以来塾には顔を見せなくなりました。

これには後日談があって、1年後あたりに、街角で偶然彼女に会ったことがあります。

「元気にやってる?」
と聞くと、ちょっとバツの悪そうな顔をして、
「学校辞めました」
と。
ええぇぇっ!?

不本意な学校へ行って、周りの空気に馴染めず、結局高校を辞めて、調理か何かの専門学校へ翌年から行くのだとか。だから今はバイト帰りですと…
それも彼女の人生ですからダメだとは言いませんし、自分の選択ですから、頑張ってね、としか言えませんでした。

でも、あの受験で彼女の人生が大きく変わってしまったのも事実です。

合理主義、効率主義も結構なのですが、極力余計なことをやらずに生きて行きたいと思う人は、百発百中の人生を歩まねばならないと言う、ものすごいリスクを背負って生きることになることを自覚していません。そして、それを親御さんも自覚していないことが多々あります。

子どもにそんなリスクを背負わせてはいけません。
それが賢い大人だなどと嘯(うそぶ)いてもいけません。

謙虚に、幅広い、ちゃんとした知識を与えていく必要があります。
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ちょっと受験屋的なことを言うと、過去の出題傾向と言うのは、確かに確率論から言えばその傾向が踏襲される可能性が高いとも言えますが、それは「入試問題とはなんぞや?」ということが分かっていない方の分析でもあります。

学校側は、時によって出題傾向を変えることがあります。
あまり同じパターンでやっていると、そのパターン慣れして入ってくる生徒がいるので、偏りが出てくるからです。都立高校の問題ですら、作文を取り入れたり、文法の比率が下がったり、古文が近世のもの中心に変化していったり、数学でも作図が入ったり、証明が穴埋めになったり、いろいろ変化しています。一番顕著なのは、全科目とも記号選択式問題が減ったということ。マークシート方式の入試が減りました。

何故か?
受験者が減ったからです。答案1枚にかける時間が増えたので、機械で処理しなくてもよくなったのです。そのぶん記述問題をしっかり見ることが出来るのです。これだって出題傾向の変化。

出る問題なんて、はっきり言って誰も分からないのです。傾向から推測は出来ますが、今年から問題傾向が変わるかもしれません。だから、範囲は網羅しなければいけません。

また実際出題されていなくても、その意味を紐解く上で、「なるほど、そういうことだったのか!」という「基礎」になる問題というものもあります。表面的な学習をいくらしても、根本が理解されていなければ出来ません。

そういう学習を「無駄」と言います。
無理・無駄を排除した学習とは、つまり、根本理解を深める学習ということになります。

プロは根本学習をさせます。
申し訳ないですが、受験生本人も、親御さんも、こと受験に関しては「素人」です。塾に来ている以上、塾の方針に従って頂きたいのですが、よく自己流を貫く方がいます。親御さんのお申し出には逆らわない方針でもいますので、ああせい、こうせいと言われれば、仰せの通りにします。でも、責任は負えません。

学習内容に不安があれば、いつでもご相談に乗っています。
ただ、前提として分かっておいて頂きたいことは、出そうな問題だけやれば受かるわけではない…ということなのです(笑)