kokuhakuずっと「あとで買う本リスト」に入っていて、なかなか買わなかった本。連休中に水戸の書店で文庫化されているので迷わず買いました。

女性の先生が、自分の娘は事故で死んだんじゃない、このクラスの生徒に殺されたんだ、と告白するところからスタートする物語。まもなく映画化されますが、実は映画で見ても面白くないように思います。

それは、この本が前編モノローグで構成されているところに、その迫力と一種の絶望感が強く強く感じられるからです。

娘を殺され、法ではなく個人的に裁きを下す女性教師。
自己顕示欲の強い、若く愚かな熱血教師。
事件後引きこもり、ついには母親を殺してしまう犯人の少年B。
わが子の無実を信じたいばかりに責任転嫁ばかりを考える母親。
事件の直接の原因を作った少年Aの同級生殺人。
そして、冒頭の女性教師による本当の復讐。

物語は確かに陰鬱で、そこには絶望しか転がっていないように思えます。子どもたちの暗部や甘ったれた真理、自己中心的な思慮の無さなど、良く考えれば反吐が出るような話題ばかりが連なる物語ですが、なぜか引き込まれてしまいました。

それは何故か。

設定に若干の非現実さはあるものの、被害者の「復讐したい」というむき出しの欲望が根幹に流れていることによる「分かりやすい正義」と、その正義を疑うというちょっとだけ知的な部分が読み手の好奇心をそそるのかもしれません。

また、次から次への登場する、文中で言うところの「馬鹿ども」が、何とも自分勝手な理屈を捏ね回し、結局「自分は悪くない」「こうするしかなかった」「こうすれば○○になると思った」と自己肯定・責任転嫁を繰り返す様が何とも惨めかつ哀れで、人間のもっとも汚い部分を見せ付けられているかのようで、逆にそれに夢中になってしまうところがあります。


また、熱血教師の詭弁や親が分かっていない子どもの気持ち、そんなものが眼前に叩きつけられます。「親の心子知らず」とよく言いますが、それはイコール「子の心親知らず」なのであって、これまで発生した奇奇怪怪な数多くの少年犯罪の原因を、ある一面ではあるけれども解き明かしているようにも思えます。特に、直接的に教師の娘の命を奪ってしまった少年Bの思いと、独善的なその母親の思いが、子は母を思い、母は子を思っているのもかかわらず、その思いが乖離し、噛み合わないところが何とも歯がゆく、かつ「これが現実なんだろうな…」と感じさせるものでした。

若い熱血教師というのは実に困った存在で、何でも自分で解決できると思っているし、他人の領域にもズケズケと土足で踏み込んでくる(実は最後にその理由が分かるのですが…)ので、何とも面倒で私は嫌いなののですが、もう一つ、熱血教師は「自己陶酔」に陥る可能性が非常に高く、周囲が全く見えていないという、これまた「独善的」であることが多々あります。そんな愚かな若い教師も、クラスの女子のモノローグという形で実に良く描けています。「ああ、いるいる、こういう教師」と思ってしまいますし、読んでいて、「ああ、最悪っ!」と愚かぶりに顔をしかめることも(笑)

若い作者ゆえ、設定に若干リアリティが無く、幼稚な展開だな…と思う部分も若干あります。「そんな簡単に大それたものを作れないだろう」と思ったり、そんな知恵を一体どこから?とも思いましたし、だいたい、中学生のモノローグとしてはあまりに言葉が難し過ぎるだろう…と思うことも(笑) 細かい点を突っつけば、ボロは出てくる作品です。

しかし、それ以上に、この作品が取り上げたテーマは大きいものですし、私は比較的共感できる領域にある作品だと思いました。被害者よりも犯罪者を守る法律が強力に出来ている「犯罪者天国」日本。被害を受けたら復習したいという、人間のごく当然の思い。親でも分かっていない子の思い、子どもの残酷さと子どもの幼稚さゆえのいじめ。そして何よりもっとも大きいテーマは、「母親」なんだと思います。

子どもを殺された女教師も「母親」であり、犯人の少年の「母親」、原因を作った少年の「母親」、大きく取り上げられている存在は皆母親です。そして、母親の愛情の重要性を様々なケースを通して見せられている気がします。私などよりも、「母親」である方が読むと、非常に衝撃的かもしれません。

いずれにせよ、考えさせられることが多い「秀作」であると思います。もちろん、ミステリー作品としても楽しめるものではありますが、作品自体のクオリティを問うのは野暮かもしれません。