08 以前からずっと「積ん読」になっていた本書。本屋大賞で4位という話題の書でしたが、何とこの春、芝中で出題されました。
 「あ、これ、持ってる、オレ!」
 と言いましたが、実はまだ読んでいなかった… やっぱり本屋大賞とか、チェックすべきですねー。慌てて書棚から引っ張り出して読みました。

 舞台は長崎県五島列島の小さな中学校の合唱部。顧問の先生は産休に入るため、自分の中学時代の同級生で東京の音大出身の柏木に、1年間という約束で合唱部の指導を依頼するのですが、この臨時教員・柏木先生がかなりの美人。女子部員しかいなかった合唱部に、先生目当てに男子生徒が多数入部してきました。しかし、そのうち真面目に練習しない男子と女子の対立が激化します。そんな中、柏木先生は、夏のNHK全国学校音楽コンクール長崎県大会出場に、男子との混声での出場を決めてしまうことに…
 柏木先生は、課題曲「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」(アンジェラ・アキの歌ですね)にちなんで、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を出します。誰にも見られないその手紙には、部員たちの等身大の秘密が綴られることになります。先輩との恋愛や自閉症の兄弟のことなど、なかなか複雑な事情を抱える中学生の等身大の心の葛藤が描かれています。

 合唱ももちろんですが、音楽活動やバンド活動などは、スポーツとともに子どもには是非経験してほしいことの一つです。「バンドなんて何がいいのか…」「あんなのは不良がやるものだ」(ちょっと古いか…(笑))という方は、もう少しその意味合いを知ってほしいところです。
 合唱でも、ブラバンでも、バンドでも、まずそれぞれのパートをしっかりとこなせなければ他に迷惑がかかります。音楽は基本的に「アンサンブル」ですから、誰かだけが上手であっても成立しません。むしろ、突出して上手なメンバーは必要なく、全員が安定して一定のレベルであることがアンサンブルを上手に聞かせることになります。だからまず「個人練習」で自分の技術を磨かねばなりません。

 しかし、今言ったように、個人戦ではないので、皆と合わせるという作業が必要になってきます。それが主に音楽活動における「練習」というものになります。バンドでは、ギターやキーボード、ボーカルといったメロディ系の楽器はドラムやベースをきちんと聞いて、リズムが狂わないように「合わせる」必要がありますし、リズム系楽器はメロディーを引っ張るために正確にリズムを刻まなければなりません。音楽は常に「他」を意識して成り立つのです。

 不登校になったり人間関係を築くことが下手な子がフリースクールなどへ進学するケースがありますが、そういう子たちがよく学校でバンド活動をやっていたりします。学校内でそれが盛んであるのは、このコミュニケーション学習の一つだと考えられているからではないでしょうか。他を意識し、他と合わせていくことで協調性が生まれ、一緒に何かを作り上げるというチームワークを学び、そしてそれには自分が成長することが大切なのだと知る。とても良い教材になると思うのです。

 もちろん同じようなことをスポーツで学ぶ子は多いでしょう。しかし、体育会系のあのノリがどうしても嫌いな子はいるものです。私がそうでしたから(笑) しかし、そんな子でも音楽活動は同様の効果を得ることが出来ます。是非是非と思います。

 この本、実は文章自体は正直あまり読みやすいものではありませんし、その話は必要だったかな?という場面や、それはちょっと突拍子もないでしょう…というものもありました。でも、全体を通じて、中学生の「大人子どもな心情」や自閉症の兄を持つ中学生の「家族の事情」などに対する葛藤をよく描けているなぁと思います。子どもは子どもながら、子どもなりに事情を抱えているのだということは、私たちも現場で嫌というほど見ています。しかし、そういう運命をどう解釈していったらいいのかは難しい問題ですし、それには絶対の答えはありません。だからこういう物語を読み、子どもたち自身が答えを見つけていけることが大切なのではないかなぁと思います。ウチの子どもたちが読んだら、どんな感想を持つでしょうか。共感するのかなぁ?

 また、九州の言葉というのも、いいもんですね。昔から思いますが、「方言女子」はグッとくるものがあります(笑) 「何となく首都圏」などというのとはハッキリと異なる「故郷」を持つ人への憧れというのもありますね。 最後のシーンは、ジンときました。是非一度。