あのピカソが、街で出会ったファンから絵を描いて欲しいと頼まれたとか。快く引き受けたピカソは、30秒足らずで見事な絵を描いてみせると、「100万ドルになります」と絵を差し出したのだそうです。「え? たった30秒で描いた絵が?」とファンが驚くと、ピカソはこう言ったそうです。
「この絵に費やした時間は、30年と30秒です」

残念ながらこの逸話が本当なのかどうかはわかりませんが(笑)、なるほどなぁと思う話です。プロが見事に短時間で絵を描くことが出来るようになるのに、一体どのくらいの時間がかかって、一体どのくらいの努力をしたのか、その部分を全く忘れて「30秒で描いた絵を高く売りつけるなんてボッタクリだ」と言う人がいるんです。いや、意外にこういう人は多いものです。プロになるまでの時間を含め、その技術料を含めての値段であって、実労時間に対する「時給」で生きてるわけじゃないんですね。「プロ」というのはそういう仕事をしてるんです。

私の友人には、会社員も多いのですが、自分で仕事をしている実業家やフリーランスの人間、個人事業主も多いものです。プロのライターや漫画家、インストラクターなどもいるのですが、そういう人たちと話していると、必ず出てくる話題に、

「タダでやって欲しい」
「おたくも宣伝になるでしょう?」
「ちょっとの時間でできるでしょう?」
「もっと安くできませんか?」

そういうことを言ってくる人がいるという「あるある」があります。
あなたなら大した時間もかからずにやれるでしょうから無料でやって欲しい… こういうノリでくる人って、やはり上記のようなプロの仕事の「本質」というのを全く理解していないのでしょうね。裏返せば、

「そんなの簡単な仕事だ」 
「楽して稼げていいね」

そういう思いがあるのだと思います。バカにしてるんですね。プロの仕事を。

「じゃ、自分でやればいいじゃん」

と言われると、自分じゃできない。

「練習すればいいじゃん」

と言うと、出来るようになるまでにどれだけの時間とお金がかかると思うんだ!ということに。ほら、プロは出来るようになるまでに、時間とお金をかけて、その短時間で仕事が出来るようになってるんですよ。

プロは時給で働いてるわけじゃないんです。

これ、塾の先生(プロとして自分で塾をやっている先生)も同じなんですね。

最近では、学生時代に塾講師のアルバイトをしたことがあるお父さん・お母さんも多いでしょう。塾でなくても家庭教師をしたことがあるという方は結構いらっしゃるのでは?  しかし、それはあくまでアルバイト。さらには大手塾のようなところであれば、マニュアル通りに動いてきただけなのかもしれません。

だから、

「自分だって教えられる」
「勉強教えるなんて簡単だ」
「あんな子供だましで高いお金とって…」

なんて考える方もいたりして(幸いなことに私は一度も出会ったことがありませんが、他所では結構聞きます)、その塾の方針に従わなかったり、全然違うことをやってしまったり、授業料を値切ってみたり(笑)なんてケースもあるんだそうです。

でも、分かってないなぁと思うのですね。
私なんかも思われているのかもしれません。子どものお相手して、バカな話して、時々授業して、毎日楽しい、気楽な商売だなぁなんて。でも実際、昨日今日塾の先生になった人や、やはり雇われて塾の先生をやっている人とは、残念ながらスキルも年季も、そして考えていることも配慮も、悪いけど段違いだなぁと自画自賛する部分もあります。やっぱり28年この仕事をすれば、それなりのプロにはなるものです。

ですから、難しい質問も目の前でスラッと解いて解説すると、ものすごく簡単なことをしているように見えるんです。すぐに「分かった!」って言わせたりもするので、実はものすごく簡単なことだったんだと見えるのかもしれません。だから楽な仕事をしてると思われるんですね。

でも、その質問は28年の経験の中で何度も受けてきたからこそ、パターン化され、蓄積されているのであって、どう教えれば一発で分かってもらえるかを分かっているからこそ「簡単」に見られるわけですよね? その答えを簡単に出すのには、28年かかっているわけです。

つい数ヶ月前に、漢文が全然わからないと言って質問に来た私立中の女の子がいました。
学校の先生の説明を何度聞いてもわからないと。授業が全く分からない。ルールも、読み方も、何にもわからないのに、来週テストで本当に困ると。その子は英語と数学しか塾では取ってないので、国語の質問に答える義務もないのですが、長年のお付合いですから、どれどれ?という話になりました。 

何だよ、こんなの簡単だよ。1分で教えてやるから、そこ座れ(笑)
本当に1分でした。1分後に、その子は「分かった!」と言って、それで終わりました。数日後のテスト結果が返ってきて、何と漢文の部分は満点に近い点。ほらね。まぁ、ちょっと調子に乗って「学校の先生は何教えてんだよ?」なんて偉ぶってみましたが(ゴメンなさい)、 だからって誰にでも出来るような簡単なことを簡単に教えたわけでもないんだと思うのですね。仕組みだけちゃんと教えれば後は考えて出来る、その部分を極力単純化して教えておく、かつ一般的な塾のように「手順」を教えるのではなく、仕組みを教えてあとは自分で「考える」ということを怠らせない、それにはどこまで教えておくか、どこは単純化しておくか、そんなことを「体が覚えている」からこそ、1分で行けるんです。自画自賛しますが、プロとして28年積み重ねた結果なんですね。

その場ではもちろん「無料」で教えてますが、これを授業料を頂くとなると、結構高価なものになるのは事実です。

「塾長の個別授業をして欲しい」
というご要望も時々いただきますが、正直お断りしています。それは目の玉が飛び出るほどの高額を頂戴したいからです(笑)まぁ、実際、私にそんな価値はないんだと思いますが、それでもまだまだそんじょそこらの塾屋には負けませんよ、って自負はあります。

みなさんのお知り合いや友人にも、そういう「プロ」として仕事をされている方がいらっしゃると思うのですね。傍目には自由気ままで、ノーストレスで、楽な商売をしていると思われがちなんですが、自分のスキルを売っている方は労働時間を売っているわけではないので、それはまた見えないところで大変な努力の積み重ねをされていることが多いものです。長い時間と労力をかけてスキルを身につけていたりしますから、短時間で出来る仕事だと甘く見たりバカにしたりするのは、何も分かってないと思われるのがオチです。

もちろんプロだから何でも出来る、完璧にできるわけでもないのです。ですから偉そうなことは言えませんが、それでも、そう簡単な仕事をしてるわけじゃないんですよ、ってことをわかって頂けるとありがたい限りです。