IMG_5402筒井康隆という作家の作品を読むようになったのは、特別いつからというきっかけがあったわけではありませんが、私の人生の中で何度か登場する作家になりました。

大学生の頃、「100万男」という深夜番組で、通行人に声をかけて100万円を渡し、自由に使ってもらうという企画をやっていたのですが、そのナビゲーターが筒井氏でした。確か、「無人警察」という作品が教科書に採用された時、「てんかん」患者差別だと、てんかん協会とかいう団体から抗議されて、その後断筆宣言をしたのではなかったかと思います。そしてタレント・俳優業に進んでいった頃の番組であったような記憶があります。実に面白い番組でした。今じゃ予算の問題もあって作れないんだろうなぁ…

初めて読んだのは、中学生の頃。
親父の書棚にあった作品。何だったかは忘れました。
「ああいう作品を読んでると、ひねくれ者になるぞ」
と母は言っていましたが(笑)、お陰様で見事なひねくれ者になり、楽しい人生を歩んでおります。何を読んだかは定かではありませんが、彼の作品ですから、相当な衝撃とぶっ飛んだ発想、そして強烈なぶっラックユーモアが私に衝撃を与えました。実に面白かったし、夢中になって読みました。

実は、オヤジの本棚をあさって筒井康隆を探していた時、私はこの「おれに関する噂」を手にしました。主人公はごく普通の一般のサラリーマン。ところがある日突然、自分の情報がテレビや週刊誌で報道され始めます。しかも、自分の明かされたくないプライベートばかりが報道され、その他の部分、関連した部分は一切報道されません。どこで見ているのかもわからないけど、とにかくプライベートが報道されるのです。しかし、主人公が半狂乱になって、最後にとった行動によってその報道は一切されなくなり、また別の一般人の報道が始まります。

中学生の私にはSFとして面白い作品でしたが、高校の頃にジャーナリズムに興味を持ち、大学ではマスコミュニケーションを専攻して、改めてこの作品の意味するところに気づきました。そうか、そういうことか、と。

つい先日のこと。
友人の離婚を、スマホのニュースアプリで知るという特異な経験をすることが出来ました(笑)芸能界で活躍する人ですから、まぁそういうことになるのですが、それって何のための発信なんでしょうね? よく考えるとおかしなことです。

最近では、政治の問題でも、芸能の問題でも、また事件でも、「それって必要な情報なのか?」というような報道が目に余ります。先日は、飲酒で交通事故を起こした女性芸能人の公判の報道の中で、彼女がある日スーパーで鶏のから揚げを買い、笑みを浮かべていた、酒のツマミではないか、夫婦でビールでも飲んだのだろうか? なんてことをTVで大々的に大真面目な顔をして報道していました。

鶏のから揚げを買っているところを着けていって取材している報道陣、ほんのチョットでも笑顔でも見せようものなら、何と不謹慎なやつだと非難をする気満々の記者たち。そして一体その情報がどれだけ有意義なものなのかを精査も出来なくなっているTV局…

あれ? どこかで見たことあるぞ、これ?
って引っ張り出してきたのが「おれに関する噂」
です。ああ、これ、ドンピシャですね(笑)
改めて読み返しちゃいました。

主人公が耐えきれずに週刊誌の出版社に直接殴り込んだ際、出てきた編集長が言った言葉が全てを物語っているような気がします。

「マスコミが報道すれば、なんだってビッグ・ニュースになるのです」
「報道価値なんて、報道したあとからいくらでも出てくるんです」

マスコミ自身の言葉として作中でこれを言わせてしまうというのは、ものすごい皮肉ですよね。意味がわかったときに、ニヤリとしてしまいました。

今や、ジャーナリズムの世界に足を踏み入れようとする若者になかなか出会うことがありません。どうも徐々に「あこがれの世界」ではなくなってきているようです。私の出たマスコミ学科も、生徒の募集には苦労するようになってきたようです。私達の時代は結構看板学部だったんですけどね。

他の短編も読み直してみています。やっぱり面白い。筒井康隆は天才だと私は思っています。